バイクフレームをオーダーする
PART4 フレーム製作
CAD製作した設計デザインをもとに、いよいよオッフィチーナでの、手を汚しながら行う、作業がはじまります。
CAD製作した設計デザインをもとに、いよいよオッフィチーナでの、手を汚しながら行う作業がはじまります。
「フレームを製作する前にオーナーになる人を知ることができれば、その人のことを考えて作るね。ユーザーが私の仕事に満足してくれる、そう思うだけで嬉しくなれるんだ。」
ドリアーノがあなたのことを頭に思い描き、スチールのパイプからフレームを作りあげ、そこに命を与えます。
オッフィチーナでの実際のフレーム製作現場を見ていきましょう。
BIXXISはコロンブス(クロモリ)とレイノルズ(チタン)に専用チューブセットをオーダーしています。
納品されたチューブは指示されたサイズ、直径、形状のものが届くが、長さの微調整はまだされておらず、各フレームサイズに合わせたサイズにチューブを加工します。
チューブは正確で完璧な組み付けのため、必要な長さに切断、切削します。この作業は、フライス盤や旋盤でチューブを切り出し、仕上げは手でやすりがけして行います。
「今日のチューブ加工は昔よりもはるかに手間がかかる作業になった。
ラグドフレームをろう付けで作っていた時代は、誤差の許容範囲が大きかったので、加工に今ほどの精度は必要なかった。
万が一チューブの長さの間違いが生じても、接合部を見ればすぐに見つけられる。」
BIXXISのようにチューブをTIG溶接で直接つなぐ場合、チューブの接合面の加工は、ろう付け溶接に比べて100倍もの精度が求められます。
冶具上でチューブを組み付け、フレームを形成しながら、各寸法をチェックします。
ドリアーノがフレームの設計図を示しながら話す。
「ここにある設計図どおりに冶具の上で完全に同じフレームを再現しなければいけない」
ここから、ノギス・定盤・錘・メジャーなどを駆使して、フレーム各部の寸法を取ります。
設計図上の全ての数値が厳守に再現されなければならず、とても細かい、手間のかかる作業です。
「チューブ同士の継ぎ目には絶対に隙間が生じてはならない。もしチューブの組み合わせが思わしくなかったら、一度外して、やすりをかけ直して再び冶具にセットしてチェックする。精度が出るまで何度も繰り返すんだ。」
溶接はフレーム製作の過程で一番のハイライト。
フレームを再び冶具にセットし、TIG溶接のトーチと溶接棒を準備します。
ドリアーノが得意とするTIG溶接(Tungsten Inert Gas)とは、トーチ内のタングステン電極と溶接する母材(チューブ)間に生じるアーク放電を用いた溶接方法。
溶接時の綺麗な閃光は、トーチからアルゴンなどの不活性ガスを噴きつけ、母材の溶融金属部を大気から遮断して保護するためのもの。
彼の溶接へのこだわりは、溶接の際にトーチが作り出すアルゴンの層だけでなく、母材のチューブ内にも同様のガスを導入し、完全な保護を行っている点です。
これはドリアーノの溶接技術とその製品品質の高さを示す特徴です。そのため、トーチにアルゴンガスを供給するボンベは、冶具にも直接つながっています。
ドリアーノの極めて高度な技術により溶接されたフレームを見てみましょう。
スチールフレームの溶接には、クリアするべき重要なハードルが2つあります。
ひとつは、金属に焼きが入る問題。
TIG溶接の際、溶接部全体を熱して、母材の金属を溶かすため、その際温度は極めて高温に達します。
金属が冷める過程で焼きが入る、すなわち、金属の結晶質分子構造が変化する。これにより堅く、しなやかになるが、それと同時に脆くなりやすく、溶接部がひび割れする恐れが生じます。
そのため、溶接では過度の温度で金属に焼きが入らないようにしつつ、フレームの特性が損なわれることを防ぐ必要があります。
熟練した職人の技巧があってこそ成しえる作業です。
ふたつ目の問題は溶接時の“引き戻し”と言われるもの。 金属素材の何らかの加工をした経験がある方なら「溶接によって母材が“引っ張られる”」ということをご存知でしょう。
つまり、熱によって母材が膨張することです。バイクフレームの溶接の際にこれが生じると、全てのアライメントと平行性が狂い、すべてが台無しになります。したがって、溶接の際のアライメントチェックは不可欠で、溶接の度に行います。とても忍耐力のいる作業です。
「フレーム1本溶接するためにこのアライメントチェックに丸1日費やさなければならない。その間はこのチェックに手を取られ、他の作業も中断しなければいけない、手間のかかる作業だ。」
全ての溶接を終えたドリアーノは再びフレーム各部のジオメトリ、平均性、アライメントを入念にチェックする。恐らくこの作業はフレームビルダーにとって最も重要な仕事のひとつです。
「ビルダーは計測学に熟知してなければならない。出来上がったフレームが設計図と一致することを常に頭の中で意識するんだ。溶接が抜群にうまいだけでは優れたフレームビルダーとは言えない、溶接はフレーム作りの過程のわずか一部に過ぎないからね」
フレームの入念な仕上げチェックが終わったら、オッフィチーナでのフレーム製作は最終段階です。
フレームをペインターのもとに届ける前に、再びリーマーとフライス盤にかけ、BBのねじ切りや、ヘッドチューブ、シートチューブのクランプ取り付け部の表面処理を行います。
ここまでのフレーム製作の作業工程は、大よそ以下の通りです。
・チューブ加工
・冶具でチューブの組み付け
・スポット溶接⇒本溶接
・ねじ切りやクランプ取り付けなど各部の仕上げ
これらの作業の中に、精度チェックが幾度となく行われています。
スタンダードサイズのフレームの場合、チューブの加工や部分的な溶接など、ある程度の“作り置き”ができますが、サイズのカスタマイズではそれができず、より手間と時間がかかります。
最終チェックを終えたフレームはいよいよペインターのもとに届けられます。